ペットショップの「お年玉セール」
- maro00
- 2022年1月3日
- 読了時間: 10分
命が叩き売られていいのか...
新型コロナウイルスの流行により生活や行動が大きく変化させられた影響で、ペットブームが起きて久しい。実際に、1年以内に新たに飼われた犬や猫は合計約95万頭(犬:46.2万頭、猫:約48.3万頭)で、過去5年間で飼育頭数、増加率ともに最も多くなっている(一般社団法人ペットフード協会調べ)。それに伴い多くのペットを巡るトラブルが表面化、2021年11月25日には国民生活センターがペット購入トラブルについて注意喚起を公表した。俳人で著作家の日野百草氏が、歳末セールが行われている生体販売の現場を歩いた。
「これがいいだろ、○○が喜びそうだ」
関東のロードサイド、ケバケバしい色の建物にこれでもかと犬猫の大きな屋外ポスターを貼り付けた大型ペットショップはミニ動物園さながら賑わっている。その一角で生体価格20万円の子猫を見てあれこれ話す老夫婦。コロナ禍で子犬の高騰が続いているが、かつては犬ほどの値はつかなかった猫も種類によっては30万円以上と強気の値をつけている。
「○○ちゃん欲しがってたものね」
小さな声で話し合う夫婦にすかさず店員が近寄る。孫が猫を欲しがっているので買うとのことで、店員はすかさずショーケースから出して子猫を抱かせる。老婦人は消毒をしたあと抱くが、猫のことより孫の話をしている。それでもぬくもりが嬉しいのだろう、子猫は目を細めて老婦人の胸に体を寄せる。
「大好きって言ってますよ~」
営業トークは前のカップルの時とほぼ同じ、それにしても自分たちが飼うならともかく、子猫を孫にサプライズプレゼントなんて大丈夫なのだろうか。せめて孫やその親を連れて来なければ万が一「気に入らない」なんてことになってしまっては大変だ。
「じゃあこれで」
老婦人の一言、孫が喜ぶ顔を見るのが第一なのだろう。余計なお世話だ、うるさい奴だと言われても、またぞろ匿名の脅迫や嫌がらせを受けるだろうが構わない。何度でも書く。ひとつの命のやりとりとして、これはとてもおかしなことだと思う。
展示時間は6時間を超えるごとに「お休み」
2021年6月1日から「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」(以下、改正法)が公布され、その中で動愛法施行規則が一部改正された。新しく「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令」が定められ、その中にはペットショップに対するこれまでの批判を汲んだ改正がなされている。とくに展示については「犬又は猫を長時間連続して展示する場合は、休息できる設備に自由に移動できる状態を確保」「それが困難な場合は、展示時間が6時間を超えるごとに、その途中に展示を行わない時間を設けること」の2つが新たに設けられた。
「お休み中だって、残念ねー」
別の親子が残念そうにしている。時間が来たのだろう、ショーケースの一画が布のようなもので覆われた。自然豊かな田舎の大型店だが「休息できる設備に自由に移動」するスペースはないようだ。今回の改正法も抜け道が多く、この「休息できる設備に自由に移動」できるスペースがない場合は「展示を行わない時間(休息時間)」を設けるだけで構わないということになっている。しかしこことは別のホームセンター併設のペットショップもそうだったが店によってはカーテンで覆うだけ、展示に関する基準には「カーテン等で簡易的に覆っただけで隙間から覗ける状態であったり、たまたま来客がいない時間があったりしても、『展示を行わない時間を設ける』とはみなせない」と定められているはずなのに。
「ちょっと見えるよ、かわいい」
子供が覗く。さすがに店員がやんわりと「おやすみ中だからねー」と制した。実はこの改正法、既存の事業者に限っては2022年6月までに対応すればいいことになっている。準備期間が必要だろうという判断だが、本来はそれ以前から犬や猫の休息や自由に運動させる程度の対応は法改正前から進んで行うべきであり、なるべく金と手間をかけずに命で儲けようという姿勢が見え見えと言われても仕方がない。
それにしても「展示時間が6時間を超えるごとに、その途中に展示を行わない時間を設ける」の6時間の根拠はなんだろう、まさか人間の労働基準法第34条「労働時間が6時間を超えるなら少くとも45分、8時間を超えるなら少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない」におおむね準じた形だろうか。改正法に「(休息は)少なくとも30分~1時間程度は必要と考えられる」とあるので本当にそうなのかもしれない。子犬も子猫も十分な睡眠が必要で18時間は必要だ。ひと昔前のペットショップ、とくに繁華街の酔客相手のペットショップなどでは昼間から日付が変わる真夜中まで煌々と灯りのつく中で客にいじくり倒されていた。それに比べればマシだが、いまだ陳列という名の晒し者には変わらない。この改正法、保護団体関係者からの評判が悪いわけだ。
「かわいい~、柴犬欲しい」
カップルが無邪気に柴犬の赤ちゃんを見ている。赤ちゃんはスヤスヤ眠っているがプレートの生年月日を見ると生後3ヶ月にも満たない。違法ではないがやはりおかしい。改正法はすったもんだのあげくに「出生56日経過後の販売」で押し切られてしまった。できるだけ赤ちゃんのうちに売ったほうが高く売れる、消費者の大半も赤ちゃんを欲しがる、という現実に沿った形だが、なぜか「天然記念物指定犬」(柴犬、紀州犬、甲斐犬、秋田犬など)は繁殖業者が一般に販売するケースに限り「出生後49日経過後の販売」(ペットショップは他犬種と同様に56日)になっている。自民党、安倍晋三元内閣総理大臣の弟である岸信夫衆院議員が会長を務める「日本犬保存会」と、日本維新の会、遠藤敬衆院議員が会長を務める「秋田犬保存会」の要望を環境省が受け入れた形だが、母犬や兄弟との生活による社会性の芽生えを考慮するなら、せめて3ヶ月以上は必要という声は根強い。要請の理由は「天然記念物の保存」(なるべく種を絶やさず増やす、という意味で)だが、よくわからない理由、むしろ日本犬は飼い主との関係性の構築が第一なので、そのための基礎的な社会性を身につけるためにも親元や兄弟と暮らす期間を十分に取ったほうがいいと思うのだが。
「うわ、おっかねえ!」
大家族であろう集団の中の子供がサークルに入れられた甲斐犬を撫でようとして吠えられた。売れ残って大きくなり、ショーケースに入らなくなってしまったのか通路の奥にはこうした中・大型犬が数頭、サークルで囲われている。
「危ないから触っちゃだめよ」
こちらも店員がやんわり制す。子供はサークルを蹴るような仕草をして家族の元へ逃げて行く。甲斐犬は男の子だったが、しつこく吠え立てることはなくクルクル回ってその場にうずくまった。危ないのは子供のほうだろうに。
筆者も子供のころ、近所で生まれた甲斐犬のうち引き取り手がなく最後まで残った女の子をもらい家族で育てたので心が痛い。彼女は15年生きて天寿を全うした。この子もせめて暖かい家族に迎えられるといいのだが。
5万円祭り開催!!
「バーゲンなんて物みたい」
楽しそうな家族の中で中高生くらいの女の子だけは怪訝な顔をする。一部の半年を過ぎた犬や猫のケースに「バーゲンセール」とカラフルなポップが踊っていたからだ。人として当たり前の感覚だろう。そうした当たり前の感覚を共有している心あるペットショップ、とくに小規模な個人店舗の中には生体販売について真剣に考え始めた店もあり、販売個体の数を絞り、十分な環境の下で法律の一歩二歩先の取り組みを実践している店もある。チェーン店の中にもホームセンター大手、島忠ホームズのように一部店舗で生体の陳列販売を禁止して良質なブリーダーや保護団体との仲介に取り組んでいる店もある。
「お年玉じゃ買えないよねー」
28万円のポメラニアンを見て別のカップルが笑う。これも不思議なのだが、生まれた命と歩むきっかけとして「クリスマスセール」だの「お年玉セール」だので買うものだろうか。売るほうも不思議に思わないのだろうか。別のペットショップのチラシでは「歳末感謝祭」とあった。何に感謝しているのか。「大決算セール」なんてのもあったがそれは決算処分なのか。そういえばたまたま見かけた他のペットショップのブログに「目玉犬現る! 5万円祭り開催!! なんと1万の子も」とあった。よくよく考えれば考えるほど、やはりこの国に残る旧来からのペット文化は間違っている。何度でも言う、おかしい。
2021年11月18日、フランスはついにペットショップなどでの犬や猫の販売を禁止する改正法を可決した。2024年からはブリーダーからの直接購入か保護施設からの引き取り以外で犬や猫を飼うことができない。同じ改正法でも日本とはえらい違いだが、これは別に「おフランスでは~」のような出羽守(でわのかみ)というわけではなくシンプルな「命」の話である。アメリカでも各州、各市でペットショップを禁止する法律が続々制定されている。もう世界的にもペットを物のように叩き売る、そうした時代ではなくなりつつある。
そもそも「ペットショップを見るのが辛い」という人も増えたように思う。気持ちはわかる。見ようによってはショーケースの子犬、子猫たちはかつて日本に存在した、幼くして遊郭に売られ、客引きのために陳列された遊女のようだ。遊郭は大ヒット作品『鬼滅の刃』の舞台となったため一部で議論を呼んでいるが、ああして子供を売り買いするのが当たり前の時代は確かにあった。それは現代人からすれば「おかしい」時代だろう。次の動物愛護法改正が5年後の2024年、それまでに子犬工場で作りまくって大量陳列という旧来のペットショップに関しても同じように「おかしい」時代と思えるような文化が国全体で共有されることを願わずにはいられない。何度も書いているが、旧来の価値観である「たかが犬猫」は「たかが人間」と同一線上にある。命の問題とは理屈ではなくそうしたものだ。
いままさに、このきらびやかなペットショップの奥でうずくまる、3万円と値札のついた甲斐犬の子のような境遇を生み出さないためにも。
動物愛護法改正で「引き取り屋」がクローズアップ
「以前は、売れ残った犬猫は保健所などの自治体に持ち込まれて処分(多くは殺処分)されるのが主流でした。しかし’13年施行の動物愛護法改正で、自治体は業者からの引き取りを拒否できることになった。その結果、あぶれた動物の処分に困った業者の受け皿として、有料で犬猫を引き取ってくれる引き取り屋がクローズアップされてきたのです」(町屋氏) 動物を有料で引き取ることは違法ではない。問題にされているのは、引き取った動物への虐待行為が疑われる業者が多いという点だ。 「面倒を見切れなくなって生きたまま山中に遺棄するという事例もあります。これはれっきとした虐待ですが、日本人には『生きている動物を野に放つならいいじゃないか』という発想があるようで、事件化しにくい」(同) 店の裏で放置されたまま死を待つのか、暗躍する引き取り屋の虐待的環境のもとで飼い殺しにされるのか。いずれにしても、行き場を失った動物たちを待ち受ける未来は、あまりにも過酷。
ペットショップの裏側では、劣悪な環境でモノ同然に扱われ続けた犬猫が病気で命を落とすことも珍しくない。都内にあるホームセンター内のペットショップに勤めていたAさんの店で亡くなった犬猫の驚くべき扱われ方の実態を証言した。 「犬や猫が亡くなっても裏にただ放置するだけですよ。死骸を新聞紙に包み、ビニール袋に入れて縛って、ポンと置いておく。店員はそこで仕事をするんです。そして死臭が強くなってきたら、経営者が燃えるゴミに出しに行きます」 ほかにも「死骸をドラム缶に入れて焼いている」「死骸を冷凍してハンマーで粉々に砕いて捨てた」といった残酷な証言も得られた。壊れて動かなくなったおもちゃを捨てるがごとく、死んだ動物を“始末”する。そこには命の尊厳などみじんも感じられない。
このようなことが無くなることを願います。
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